明石市立天文科学館、リニューアル
2010年5月29日、明石市立天文科学館が、リニューアル・オープンとなります。
さらに、今年の6月10日(時の記念日)で、開館50周年を迎えます。
http://www.am12.jp/
このニュースに関連して、以前執筆したエッセイを掲載します。
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子午線に通う
小学生のころ、足しげく「子午線(しごせん)」に通った。この子午線とは日本の標準時子午線を意味し、地図上では東経一三五度を指す。昭和三十五年六月十日、時の記念日に開館した明石市立天文科学館がそこにある。「子午線のまち」として知られる兵庫県明石市に建つ、天文学をテーマとする博物館である。
一番の目的はプラネタリウムにあった。月替わりの星空番組が、今では珍しい、解説員による投影機のマニュアル操作とライブ解説で進行してゆく。物語が始まる前に、必ず北極星の見つけ方が伝授される。
「北斗七星のひしゃくの部分にある二つの星の間隔を五倍して延ばしてゆくと…」
私たちの視線を誘導する矢印マークが、解説員の持つポインタから示される。星座にまつわる神話のスライドが終わるころには、ドーム内はまさに真夜中、私たちを取り囲む天井や壁は全く意識されなくなる。
「おはようございます。明日の朝です」
解説員が時間を進め、太陽が昇ってきたところで星空ショーは幕を閉じる。立ち上がり、他のお客さんが出口へ向かう一方で、私は中央に置かれた、旧式ロボットに目を奪われていた。
それは、旧東ドイツのカールツァイス・イエナ社製造、プラネタリウム投影機UPP23/3である。武骨なまでにむき出しになった筐体、支柱そしてレンズ。巨大なオニグモのような外観を、素直にかっこいいと感じてしまったのだ。
ドーム内で展開されるのは、現在では否定されている、プトレマイオスの唱えた天動説ワールドそのものである。つまり、シートにどっかと座った私たちが動くわけではなく、ドームに映し出される星たちが移動してゆく。その星々を生み出すプラネタリウム投影機が、すべての宇宙の主といえる。
ますますかっこいい。本当の世界は地動説で語られるのに、天動説をあえて踏襲することで仮想の星空をシミュレートしているのだ。
最新の投影機では、五百万以上の星を映し出すものがある。かたやUPP23/3は一万にも満たない。在庫部品も無いことから、現役引退させてデジタル機と交換するとの検討が一時なされた。しかし、明石市の財政難を理由に、使用続行が決定した。
およそ五〇年前、本来の納入先は違っていたと聞く。伊勢湾台風の影響で名古屋市が購入できなくなった代わりに、明石市が買い付けたのだ。阪神大震災も奇跡的にくぐり抜けた。
今後大きな故障が起きれば、復旧できない恐れもある。でもUPP23/3よ、君がここに来て、ここに居続けるのは運命だったのだよ。少なくともぼくにとっては。
子午線に通っていた本当の目的は、プラネタリウム「投影機」を見に行くことだったのではないかと、今になってふと振り返ることがある。
(初出:2009.2.25)(やすだ)
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